夕方が愛せないのはまつ毛のせいだと判明した
みなさん夕方って好きですか?
私は嫌いですね。
嫌い。
正確にいうと、今は嫌い。
会社員時代は夕方大好き!
闇が広がれば広がるほど好き!夕方通り越して夜が好き!!!!でした。
朝起きた瞬間から夕方を目指し、脳内にはアフターシックスの事を考えるスペースしかなかった。
今期の交際費が明らかに足りないことや、取引先から一向に返信がこないことや、明日の会議の資料のこと、新人のヘルメットを補充しないと環境安全部(社員の安全を司るバリヤード的存在)に怒られる事、そんな事について考えるスペースはこれっぽっちもなかった。
なぜならば、アフターシックスに全てをかけていたからだ。
定時が来たら、あたかもトイレに行くふりをしながら退勤する。
もしこのあと災害があれば、私のヘルメット使っていいからね。と新人に囁きながら。
私のアフターシックスは誰にも渡さない。
何人たりとも指を触れさせない。
アフターシックスには無限の可能性がある。
映画を観れるし、漫画喫茶にも行ける。
ネイルにも美容院にも行ける、まつ毛を増やせるし、伸ばす事もできる。
まつ毛を増やしたかと思えば、脇毛を根絶させる事もできる。
飲みにも行けるし、カラオケでストレス発散だってできる。
合コンに繰り出す事だってできる。
右めがね700万、真ん中ひげ450万、左グレースーツ900万。
純粋な心と引き換えに、合コンの死神と取引した「目」で彼らの年収を読みとり、瞬時にインプットする。
この世で夕方が嫌いな人がいるなんて信じられなかった。
しかし、今は嫌いだ。
なぜなら夕方にすべてのしわ寄せがくるからだ。
畳みかけの洗濯物の山、お昼ごはんの残骸、そこかしこに鎮座するほこり、献立すら決まっていない夕飯の準備、娘の夕食にお風呂、何もしていないのに溜まった謎の疲労、太もものセルライト、シミに二重アゴ、全てが夕方のせいだ。
もろもろが夕方に一斉に溢れ出す。
こんなセルライト今朝はなかったはずだ。
さらにあと数時間で旦那さんが帰ってくる。
夕飯もなければ部屋も散らかり放題だ。
私はまず何をしなければならないのか。
苦労して手に入れた死神の目が何の役にも立たない。
あの栄光のアフターシックスで得たものは何も役に立たない…
娘を背中にぶらさげて、鬼の形相で部屋を片付ける。
なりふり構わず米を研ぎ、
完成形が見えないままに、思い思いの食材を炒める。
そして静寂の中、娘にお夕飯を献上する。(子供のご飯タイムはテレビを消せってなんか偉い人が言ってた。)
洗濯物をたたみ、お風呂を洗う。
次は、お風呂だ。
赤ちゃん湯船に娘を座らせ、娘から一瞬たりとも目を離さず、まずは自分がシャワーをあびる。
娘を産んでから、目を開けたまま顔を洗うことができるようになった。
自慢の死神の目が違う形で奮闘している。
そして娘を洗う。有無を言わさず、洗われてることに気がつかれる前に全てを洗い流す。
お風呂から出たら、最後の力を振り絞り、ぐずる娘を寝かしつける。
だいたいこのあたりで旦那さんが帰宅するが、「おかえりおつかれ」の8文字を口パクするので精一杯だ。
こんな具合に毎日毎日夕方は慌てふためいている。
日中のグータラした自分を心の底から恨み、夕方にすべての帳尻を合わせる作業に追われる。
『いざという時に慌てないために、準備はしっかりと』
会社員時代、環境安全部の部長から毎月言われていたことを思い出した。
そうだ。
私は全く成長していない。
アフターシックスにうつつを抜かし、人の年収を見抜く目を手に入れることに注力するあまり、自身の成長を疎かにしていた。
人の年収を見抜く、140本のまつ毛エクステがついた目だ。
あーーー、まつ毛エクステつけたい。
そしたら夕方も愛せる。
まつ毛エクステさえすれば、家も綺麗に保てるしご飯も美味しく作れるしセルライトも消える。
まつ毛エクステをして夕方を愛したい。
さて、
着地点を見失ったことをお察しいただき、これにて退散とさせていただきます。
さようなら。