出産したよ(前編)〜2人目が生まれたので、育児日記らしく「出産レポ」にチャレンジ〜
去る2019年2月某日、私(年齢非公開)はまぁまぁな腹痛に耐えながらも、長女(2歳)とともに、見たこともない遊具の前に立ちすくんでいた。
そう。
遊び方が全くわからないのだ。
絶妙に届かない高さに、ハンドルらしきものがぶら下がっている。
これはそもそも遊具なのか?いや、目に見えているからといってここに存在しているのか?
哲学的な思考に迷い込みそうになる遊具。
あのハンドルに触ることさえ出来れば、明るい未来が待っていると信じ込んでいる長女は、ハンドルに触らせろと怒っている。
担ぎ上げて触らせてあげたいが、だんだんと腹痛がやばめの域に達してきた。
この世の全ての二酸化炭素を、私が吐き出してるんじゃないかってくらいに息を吐き出さないと耐えられないくらい痛い。
私の吐き出す息により、周りの二酸化炭素の濃度が一気に上がり、周辺の木々が一斉に光合成を始めた気配がした。ありがとう。
緑にはいつも感謝している。
そして、私の吐き出す息により強風が吹き荒れ、落ち葉が舞い上がり、上空の雲は消滅し、宇宙に風を吹かせた。
この時私は自然界に脅威を与える存在となった。
神の域に達したのだ。
こりゃ完全に陣痛だよ。
家に帰らなくては。
まずは、人生で1番やっかいな時期である2歳児に、家に帰る事の決裁を仰がなければならない。
このハンドルがいかにつまらない存在か懇々と説明してみたが全く聞く耳を持たない。
早くしないと、私が定期的に口から繰り出す強風によって地球の軌道が変わってしまう。
試行錯誤ののち、家に帰ったらジュースを飲もう!という高度な交渉術をくりだし、家に連れ帰った。
家に帰ると陣痛が少し遠ざかってしまった。
不思議。宇宙に風を吹かせたあの神の力が消滅してしまった。ちくしょう。
娘に約束のジュースを飲ませながら、旦那さんに「チカヂカウマレル」と連絡する。
そして、不定期な痛みに耐えながら、豆をまいた。そう、今日は節分の日なのだ。
自分が鬼になり、自分に豆を投げつけるという奇祭を卒なくこなし、鬼がいなくなっても豆を延々と投げ続ける娘をなだめ、旦那さんの帰りを待つ。
夜になり、旦那さんが帰宅すると、再び豆を撒きまくる娘。
また痛みが強くなってきて、再び口から強風を繰り出す母。
そろそろ生まれるという口実により、残業を免れニヤけがとまらない父。
三者三様思い思いのひと時を過ごす。これぞ家族団欒。幸せを可視化した状態だ。
私だけ痛いけど。
そして痛みは不定期でまだ本陣痛には繋がらないまま、就寝時間を迎えた。
何故そうなったのか不明だが、そこそこに痛みがあり、幾度となく強風を巻き起こす私が、神秘的に寝相の悪い娘と寝ることになった。
なぜ旦那さんは1人のびのびとベッドで寝たのだろうか。
颯爽とゲスト用の寝室へと消えていったことは覚えているが、そこに至るまでの経緯が記憶からごっそりと抜け落ちている。
きっと辛い記憶は消し去る人間の本能によるものだろう。
そうだ。これから二児の母となるからには、記憶の一つや二つ吹っ飛ばせる能力がないと生きていけないのだ。
娘が純白のカーペットの上でお漏らしをした時の事や、オムツを洗濯してしまった時の事、
旦那さんが、新鮮な桃とビューラーを手に持ち、酔っ払って帰ってきた時の事など
綺麗さっぱり忘れている。
大丈夫。
私はきっと立派な二児の母として強く生きていける。そう言い聞かせながら出産前日を終えたのだ。
この調子だと、明日にはきっと生物史上1番かわいい赤ちゃんが生まれてくるだろう。
ちなみに、長女も生物史上1番かわいい赤ちゃんだった。
出産したよ(前編)終了。